大判例

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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)945号 判決 1977年10月03日

(一)

本店所在地 東京都千代田区内神田一丁目二番五号

山崎化成株式会社

(右代表者代表取締役山崎辰三)

(二)

本籍 東京都中野区若宮二丁目六四番地

住居

同都杉並区高円寺北二丁目三六番二号

職業

会社役員

山崎辰三

大正五年一月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官河内悠紀出席のうえ、審理し次のとおり判決する。

主文

被告会社山崎化成株式会社を罰金一五〇〇万円に

被告人山崎辰三を懲役一〇月に

それぞれ処する。

ただし、被告人山崎辰三に対し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社山崎化成株式会社は、東京都千代田区内神田一丁目二番五号に本店を置き、プラスチツク製品の加工販売を目的とする資本金四〇〇万円(昭和四八年六月一九日以前は一〇〇万円)の株式会社であり、被告人山崎辰三は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人山崎は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入の計上をするなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八七〇八万九二〇六円(別紙(一)の修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同四九年五月二五日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六五五三万三四二八円でこれに対する法人税額が二三三七万一〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させもって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六八〇四万一九〇〇円と右申告税額との差四四六七万〇九〇〇円を免れ(税務の算定は別紙(三)の一計算書参照)

第二  昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七四三七万二七九三円(別紙(二)の修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五〇年五月二四日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一九二七万四八九八円でこれに対する法人税額が六四二万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させもって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二八四五万八九〇〇円と右申告税額との差額二二〇三万三七〇〇円を免れ(税額の算定は別紙(三)ノ二計算書参照)

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実及び全般にわたり

一、被告人の当公判廷における供述

一、同じく収税官吏に対する質問てん末書

一、同じく検察官に対する供述調書

一、東京法務局登記官作成の被告会社登記簿謄本

一、岩谷エイ子の検察官に対する供述調書

判示第一、第二の各事実添付の別紙(一)、(二)の修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額につき

(商品総売上高につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月五日付売上除外調査書

(当期商品仕入高につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月八日付架空仕入及び雑収入調査書

(外注加工賃につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月五日付過大外注加工費調査書

(期末商品棚卸高につき)

一、収税官吏佐藤守の昭和五二年三月九日付棚卸高調査書

(旅費交通費につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月四日付旅費交通費調査書

(交際接待費につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月四日付交際接待費調査書

(支払手数料につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月五日付支払手数料調査書

(受取利息・配当につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月五日付受取利息調査書

(雑収入につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月八日付架空仕入及び雑収入調査書

(価格変動準備金繰入額、価格変動準備金認容につき)

一、大蔵事務官町田健一作成の昭和五二年三月一五日付証明書

(貸倒損失金につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月四日付貸倒損失金調査書

(減価償却超過額、同当期認容額につき)

一、大蔵事務官町田健一作成の昭和五二年三月一五日付証明書

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月四日付減価償却超過額調査書

(交際費損金不算入につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月四日付交際接待費調査書

(損金計上役員賞与につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月五日付損金計上役員賞与と題する書面

(事業税につき)

一、収税官吏佐藤守作成の昭和五二年三月九日付事業税調査書別紙(一)、(二)修正損益計算書に掲げた公表金額及び過少申告の事実について

一、押収してある被告法人の昭和四九年三月期分、昭和五〇年三月期分各確定申告書各一綴(当庁昭和五二年押一六五五号符一、二)

(いわゆる認定利息・認定報酬に対する当裁判所の判断)

検察官は、被告会社の簿外収入金が被告人により個人的に運用されていることにつき、被告人に対する貸付金に認定できるとして昭和五〇年三月期につき、貸付金九、一二一、三四四円に対する受取利息一〇パーセント分九一二、一三四円を認定し、右金額をほ脱したものとなし、また、他面、被告人に対する右貸付金にかかる利息相当額は、被告人に対する同期における同額の役員報酬と認定できるとして損金に算入する旨主張する。

しかし、被告人は当公判廷において被告会社との間に金銭消費貸借契約の存在を否定しており、しかして、被告会社の簿外収入金を費消するときは法人から貸付けてもらうということだったのかとの問に対して明確に、「そういうことではありませんでした」と供述し、更に「利息を払うという約束もありませんでした」と供述したうえで「国税局の人から使った金は返して年一割の利息を払うようにいわれたからです。結局、私は簿外の金を全部返し、利息も返したわけです。」と供述している。また、被告人は、簿外の収入は被告人個人名義の預金通帳に入れ、その使途は被告人個人名義で株式取引を行ない、更に、簿外の金の使用について役員会等の決議もなく、出し入れは全く自由で、被告人の独断で費消した旨供述している(当公判廷における被告人の供述)。

右被告人の各供述からすれば、本件における金銭消費貸借契約による貸付金の存在は全く架空のものであって、本件発覚後の事後の処理として、被告人が被告会社の簿外収入金を勝手に費消したことにつき、国税局係官の指示に基づいて、年一割の利率による貸付金という形式をとったにすぎなかった事実を認めることができる。

また、被告会社の取締役山崎一毅の当公判廷における供述によっても、被告人が被告会社の簿外収入金を独断で費消していたことも推認することができる(証人山崎一毅の当公判廷における供述)。

なお、法人の金を個人で使って、使うときは返すつもりであったという被告人の供述はあるが、それは前掲被告人の各供述に照らし、単に内心の意思を述べたにとどまるものと認められる。

しかして、検察官提出の証拠たる収税官吏岩本勗作成の昭和五二年三月五日付受取利息調査書によれば、「代表者勘定認定利息明細」として「法人税法第三四条第二項(役員報酬)の規定による「経済的な利益」として代表者に付する債権についての通常の利率により計算した利息相当額を認定役員報酬として損金に認める一方、法人税法第二二条第二項の規定により認定利息として収益に計算したものである」旨の記載があり、これが本件のいわゆる認定利息・認定報酬の主張の根拠とおもわれる。

しかしながら、法人が役員に金員を貸付けたという法的事実がなければ、利息相当額の経済的利益を供与したこととはならないし、また役員報酬(法人税法第三四条第二項)と役員賞与と(同法第三五条第四項)の区別は、形式的には、その給与の支給が定期的かまたは臨時的かによる形式的基準のほかに、実質的には、あらかじめ役員の業務執行の対価として定めてあるかどうかという報酬性・対価性という実質的基準の双方を具備するか否かによって判定すべきものと解すべきところ、本件は、金員の費消につき、定期的ではなく臨時的であることは明らかであって、かつ、あらかじめ業務執行の対価としてそれが定められているものとも認められないから、結局、利息相当額の経済的利益は勿論のこと、費消した金額のすべてが役員報酬とならないことも明らかである。

次に、検察官の根拠とする前掲収税官吏岩本勗作成の調査書によれば、法人税法第二二条第二項の規定により、通常の利率により計算した利息相当額を認定利息として収益に計算できるとするが、しかし、法人税法第二二条第二項において、第三者に対する無利息の貸付金債権にかかる経済的利益の供与として利息を認定し収益として益金に算出しうるためには、少なくとも、同条項中の「無償による役務の提供に係る収益」の発生にあたる事実が必要であると解すべきところ、本件は叙上認定のとおり、被告会社の行為ではなく、被告人が独断で被告会社の簿外収入金を費消した被告人個人の行為と認められるので、法人による無利息の金銭貸付ではないから、無償による役務の提供にもあたらないことになるため、被告会社に利息相当額の収益も生じない。

なお、これを経済的にみれば、被告会社が役員に金銭を無償で貸付けて利息相当額の経済利益を与えたものと経済的効果は同一であるから、無償の貸付けは、経済的合理人としては著しく異常不合理であって、法人税の負担を不当に減少させることになるとして、いわゆる認定の名のもとに、法人の利息不徴収行為、計算を否認し、存在しない取引行為、計算を在るものとして擬制し、通常の利率による利息を認定することがあるが、しかし、それは税法上は、法人税法第一三二条の同族会社の行為計算の否認規定によらざる限り許されない。しかして、租税刑事犯においては、その本質上、法人税法第一三二条の適用は許されず、偽りその他不正の行為には法人税法第一三二条の適用による場合は含まれないと解するのが相当である。

他に、本件において貸付金の存在ないし貸付金利息の発生を認めるべき証拠もない。

そうすると、金銭消費貸借の存在が認められなければ、そもそも貸付金債権は生じないし、貸付金利息もまた生ずることもなく、勿論、それを前提とする役員報酬の発生することもない。

かえって、本件は、被告人が被告会社の代表者たる役員であって、しかも、本来、被告会社に帰属すべき簿外収入金を自由に、何時でも自己のために独断で費消したというのであるから、そのことは、税法上は、法人にとってみれば、少なくとも、臨時的な給与としての利益処分たる役員賞与(法人税法第三五条第四項)の支給となるか、或いは、法律上、法人が右役員に対し損害賠償請求権を取得するにとどまる筈である。しかして、それらが役員報酬の支給とならないことは既に述べたとおりである。

以上のとおりであるから、本件は貸付金が架空のものであるので否認すべきものである以上、受取利息は生じないし、右貸付金に対する受取利息の存在を前提とする同額の役員報酬も認めることはできない。

従って、昭和五〇年三月期につき受取利息及び役員報酬各九一二、一三四円については、いずれも認めないこととした。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)。同法二五条一項。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松沢智)

別紙(一)

修正損益計算書

山崎化成株式会社

自昭和48年4月1日

至昭和49年3月31日

別紙(二)

修正損益計算書

山崎化成株式会社

自昭和49年4月1日

至昭和50年3月31日

別紙(三)ノ一

ほ脱税額計算書

山崎化成株式会社

自昭和48年4月1日

至昭和49年3月31日事業年度分

別紙(三)ノ二

ほ脱税額計算書

山崎化成株式会社

自昭和49年4月1日

至昭和50年3月31日事業年度

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